「渡瀬君、つまんない?」
「う、ううん。」
向かいに座っている同い年とは思えない大人っぽい奇麗なタイプの女の子に突然声をかけられ、ぼーっとしていた広樹は驚いて笑顔を作った。
「こいつ、コンパとか今日初めてなんだ。だから緊張してるんだよな。」
違う女の子と話し込んでいた筈の相川が急に向きを変え、広樹の肩を抱き間髪入れずに口を挟んだ。
広樹は黙って頷いた。
「そうなんだー。そういや、テレビと球場まわり以外で姿見た事無いって、ファンだった友達も言ってた。夜遊んだりとかしないんだー?」
相川と話していた、斜め向かいの今時の可愛いアイドル顔の女の子も話に寄ってきた。
「そうそう、学校出待ち行ってもいっつも部の人に囲まれてて近づけなかったって。今日喋ったって言ったら、悔しがるだろうなぁー。」
「みんな、あたしに感謝してよ。今日のを相川ちゃんとセッティングしたのあたしなんだから。」
いつのまにか、4人の女の子が全員広樹の方を向いていた。
「出待ちって。。時々校門でたかってたのって・・あれ渡瀬のファンだったのか・・・凄いな。。」
「全国テレビにでてたしなー。」
自分の向かい側の視線につられて、加藤も藤本も広樹の方を向いていた。
「うん、近所の学校が甲子園出たら、やっぱ見るよねー。野球わかんなくてもさー。また見てみたらピッチャーめちゃめちゃ格好良いし〜みたいな。」
「それに甲子園出られたの、渡瀬の力だしな。」
広樹は笑うしか無かった。
「おい、みんな〜。記者会見みたいに、渡瀬一人集中攻撃したら可哀相だろ。」
相川が笑ってみんなをたしなめた。
けれど、皆酒も回ってきた良い時間で、なかなかテンションはおさまらない。
「いいじゃん、相川ちゃん。渡瀬君と喋れるなんて滅多ないんだから、ちょっとぐらい。あたしは友達がキャーキャー言ってたから、今まで「なによ」って感じだったんだけど、
今日見てやっぱ格好良いって思った。生の方が断然。顔だけじゃなくて、何か全体ね、イイ。」
いたずらっぽい顔をして、相川と知り合いの女の子が広樹に向かってにっこり微笑む。
「ねぇ、渡瀬君彼女居るの?居るよね〜。」
一番端の遠い女の子が身を乗り出して聞いて来る。
「・・・いや、いないけど。。。」
「ウソ!フリーなんだ!遊んでないし、真面目なんだ。そういう所も良いよね〜」
「でも、一緒に歩くの気後れしそう。よっぽど可愛くなきゃ・・・」
「可愛さ負けちゃうよね。」
「ねー」と女の子同志が顔を見合わせてふざけて笑い合っていた。
「でもあたし達でも、可能性あるんだ。」
広樹はなんと返事をして良いか解らず、その言葉に合せて笑顔を作って笑っていた。
「・・・・うーん。ホントに顔キレーだね。睫、長〜。」
真向かいで広樹のじーっと顔を見詰めていた大人っぽい女の子が、奇麗な指で睫の真似をし微笑んだ。
「・・・奇麗って言われても・・・男だから、嬉しくないよ。」
広樹は小さい頃、姉と妹や周りにからかわれた事をトラウマの様に思い出し苦笑した。奇麗と言われて得した事なんて今まで一度も無かった。
「・・・あの・・・相川が言ってた通り、みんな可愛いね。 君も。」
全く苦手な環境で少しの沈黙にも耐えられず、広樹は必死に言葉を捜したどたどしく話を続けた。
「アハハ。一生懸命のお世辞ありがとう。でも渡瀬君、『キミ』じゃないよ。さっき自己紹介したでしょ。私、ユリ。」
「ご、ごめん・・・ユ、ユリさん。。」
「なんでさんづけなのよー。同い年なんだし、ちゃんで良いわよ。」
「あ、年上って感じするからつい・・ゴメン、ユリ、ちゃん。。」
「ちょっと、それあたしが老けてるって事?まぁ私も渡瀬君の事カワイーから、弟みたいに見えるけどさー。」
ユリは息をつきながら微笑んだ。
いつもの同性に対しての強気で横柄な広樹は何処へやらで、きっと明が居たら目を疑うだろう 借りてきた猫 状態の広樹だった。
「渡瀬くーん!私、アヤカ〜!アヤカちゃんって呼んで〜!」
ユリの隣のアルコールで頬に色がさしている今時少女が、手を振りながら話に入って来た。
「あ、うん。アヤカちゃん。」
「キャッ嬉しい!相川君〜渡瀬君に名前呼んで貰った!」
向かいで相手をしていた相川がアヤカの顔を見て優しく微笑んだ。
「ユリが言う通り、渡瀬君絶対カワイーね〜!ほっぺたチュルチュル〜」
同性の友達と休み時間じゃれあうように、アヤカの手が自然と広樹の頬に伸びた。
パシッ
アヤカのラメで光った爪が広樹の頬に触れる前に、横から出てきた手によってはたかれた。
シーーーン・・・
広樹を取り囲んでの記者会見状態はおさまっては居たが、皆多少の神経は広樹の方に傾けていたので、テーブル全体の空気が止まった。
アヤカの手をはたいたのは、相川だった。
「・・・アヤカちゃ〜ん、触るんだったら俺の頬触ってよ。俺、嫉妬しちゃうなぁー。」
沈黙を破った相川はふざけた口調で、アヤカにとびっきりの笑顔を見せ言葉をかけた。
その様子を見て、『なーんだ、何事かと思った』と皆の心が安心し、止まっていた空気が元に戻った。
手をはたかれた瞬間は何をされたのか解らず、ポカーンとしていたアヤカは、相川に見つめられてハッと我に返った。
「え〜!?相川君、嫉妬ってぇー?・・・キャッ。渡瀬君格好良いけど、アヤカは相川君が一番良い〜。」
顔を真っ赤にして喜んでいるアヤカの瞳には、もう相川しか映っていなかった。
「でも相川君〜、手痛かったよ〜。」
「ごめんごめん。でもアヤカちゃん、ちょっと飲みすぎてたから。酔い覚めたでしょ。」
叩かれた手を相川に撫でて貰いながら、はたかれた理由も分かりアヤカはすっかり上機嫌だった。
広樹はきょとんとした顔で一部始終を見ていたが、世界に着いていけず一人グラスに口を付けていた。
ユリは少し不思議そうに相川の顔ばかり見ていた。
残り右半分の4人は、相川のホストの素質について熱く語り始めていた。