44

         

    

  「せんせ、伝言」
 部屋に入るなり、明に裕一が楽しそうに言葉を投げかけた。
 「なんだよ?」
 
 「『ありがとうって伝えといてくれ』ってさー。加藤先輩から。代わりに行ける!って部活終わりにダッシュでかえっちゃったよ。先輩」
 机に向かっている時にやるいつもの癖で、ペンをくるくる回しながら何故だか裕一はいつになく機嫌が良かった。
対照的に座っても表情が無く、落ち着きの無い動きの明だった。
 「聞いたよ。先生、コンパのメンバーだったんでしょ。行きたかったんだったら行っても良かったのに。前に駄目って言ったけど、先生昨日電話で思い詰めてたみたいだったからさ。
  そういえば、先生彼女居なくなって結構経つんじゃない?」

 「・・・彼女作りにコンパに行きたかった訳じゃない。」
 裕一に勘違いされていると感じたが、説明する気は無かった。だけど女漁りに必死とは思われたくなかった。
 
 「?じゃぁ何しに行くんだよ?」

  
 「・・・・・。さあ、はじめるぞ。」
 明は静かに参考書を広げた。
 
 どうも様子のおかしい明に疑問を感じながらも、コンパには行かず自分の隣に居てくれているという優越感で薄く微笑みながら裕一は素直に言う事を聞き、勉強の姿勢に入った。
 
 
 
  
 
 ******************
 
 
 「お前等、卑怯だぞ。」
 待ち合わせの場所に少し遅れてきた相川と広樹をみるなり、藤本と加藤が揃えて口にした言葉だった。
 
 「何が?」
 「いくらいつもとは訳が違う相手だって言ってもさー。そこまで本気だしてくるか?俺なんて部活から帰って時間無かったしさ・・・」
 二人の上から下までを見ながら加藤がぼやいた。
 「格好の事か?俺のはこんなの普段着だぜ。コンビニ行くだけでも着ていってるよ。」
 相川が目を細めて笑いながら答える。
 「まー相川はいつもセンス良いからなぁ。お前が失敗してるとこ見た事無い。」
 藤本が頷きながら返事した。
 
 「・・・・・でも、渡瀬の私服なんて想像出来なかったけど、そんな感じなのか・・・。参った。めちゃめちゃ良いじゃん。只でさえその顔なのに・・・」
 「隣、座りたくねー。。絶対引き立て役になる。」
  
 藤本と加藤に溜め息とともにもてはやされ、広樹は困ったように笑うだけだった。
 
 「別に渡瀬は必死ちゃんじゃないぜ。渡瀬のコンパデビューのスタイリストは俺。」
 相川は広樹に絡む二人から庇うように広樹の隣に立ち、肩を組んだ。
  
 「え?相川がお見立てかよ。言われてみるとお前のセンスだなー。」
 「でも相川、自分で自分の首しめてるかもしれないぜ。みんな渡瀬に食いついちゃうかもな。」
 
 「承知の上さ。俺は2番人気で良いんだよ。今日の主役は、渡瀬。」

 相川が、静かに笑った。
 
 
 「さぁ、早いとこ行こうぜ。作戦会議とセッティングしなきゃな。」
 遅れて来たけれど、相川が先頭を切って歩き始めた。
 残りの3人は大人しく後を着いた。
 
 
 
 
 
 

 対面している4つの空席を前に、相川以外の3人は緊張した面持ちのまま固まっていた。協議の結果、渡瀬,相川,加藤,藤本の横並びで、向かいに誰が来ても恨みっこなしに決まった。
 予約していた店が解らず迷ったと連絡が入り、相手の4人は20分ほど遅れてきた。待たされすぎて、少し苛立ちも感じてきていた。

 けれど、4人が現れた途端、加藤も藤本も顔が一気に緩んでいた。
 「うーわ、最高・・・」
 「来てよかった・・・」
 「だから言ったろ。ベスメンだって。」
 小声でひそひそする声に待たされた怒りは何処にも無かった。
 相川の隣の左端に座っている広樹だけは、顔が緊張で強張り無言のままだった。
 
 
 「遅れてごめんなさい。」
 「わーうそ〜!渡瀬君ほんとにいるんだ!凄い相川ちゃん!有り難う!」
 「渡瀬君、本物?!カワイー!!」
 「やった!みんな絶対うらやましがる〜。自慢しよっ!」
 挨拶もそこそこに広樹を見付けた4人は黄色い声で叫び始めた。
 
 「やっぱり。。」
 加藤が少ししょげた。藤本が隣で笑いながら肩を叩き「お互い頑張ろう」と慰めている。
 
 「相川ちゃんサンキュ〜。」
 「どういたしまして。でも、ごめん。渡部は来れなかったんだ。」
 「そうなんだー残念。噂の秀才男前君、遠くから見たことしか無いから会ってみたかったんだけどなー。」
 相川と4人の中で一番の知り合いらしい一人が、小さな声で話し合っている。
 
 「みんな、相川ちゃんのクラスメイトなのよね?」
 藤本も加藤も耳をそば立てて会話を聞いている。
 「あぁ、約束通りクラスのベスト4連れてきたぜ。」
 「ベスト4って学年のじゃないんだ?クラスレベル高いんだね〜。みんな格好良い〜。今日、楽しくなりそう。」
 他の3人も笑顔で頷いていた。
 
 しょげていた加藤の機嫌が立ち所に治り、藤本は柔和な顔を取りもどし、にこにこしていた。
 広樹だけは、相変らず固まったままだった。
 
 
 
 
 
 相川の顔が利くらしい店は雰囲気も良く、暗黙の了解で酒も当たり前のように出てきた。
 初対面という間柄が大半のメンバーを、上手く紹介し,和ませ,嫌み無く上手く仕切っていた。
 小一時間が過ぎ、かなり打ち解けお互い目の前の相手と話ややり取りが盛り上がっていた。
 『タイプ探しや席替えは2次会』
 それが、作戦会議での合い言葉だった。けれど実際相川がベスメンと豪語するだけあって、加藤も藤本もどの女の子でも大満足だった。
 「渡瀬は誰が良い?渡瀬に一番に選ばせてやるからさ、誰?」
 「解んないよ、そんなの。。。」
 相川に耳打ちされ、広樹は弱々しく答えた。
 
 相川は卒無く4人と話し、話術で沸かせ、奇麗な物腰で接していた。
 広樹は放課後出会ってから今まで、学校以外の相川の知らなかった一面を目一杯に感じ、コンパを他人事のように見ていた。

     

      
 
 


  

   

   


<<BACK NEXT>>

CONTENTS