先に部屋へ足を踏み入れた明が、壁をなぞり電気のスイッチに手をかけた所で
広樹が明の服を引っ張った。
「点けないでくれよ・・・」
広樹の申し出に、明は無言で手を離した。
「寒くないか?」
「・・・あぁ大丈夫。。」
薄暗い蛍光灯の真ん中の豆球の灯りだけの中、暖房もかかっていない部屋は余計に寒く思える。
明は毎日過している自分の部屋が、全く別空間の様に感じた。
閉めたドアの隙間からリビングの灯りと、紅白の音が漏れて聞こえて来る。
現実離れした今の状況を、その音と光が明に何とか本当の事だと感じさせてくれた。
「ヒロ・・・」
いいのか? と言いかけて、明は言葉を止めた。
広樹の手を引いて、この部屋に入る時
分らないままのこの状態、考える事をやめると決心したから。
決心しないと、踏み出せなかった。
明は部屋に入った今でも、広樹の言う事を信じてはいなかった。
それに広樹とはちゃんと心が自分に向いて、好きになってくれてから勿論関係を持ちたいと思っていた。
だけど、いくら明が首を振っても、広樹は頑として意志を変えないと感じた。
このまま押し問答で、年を越すのだけは真っ平御免だった。
だから、踏み出した。
勇気をありったけ使って踏み入れた部屋だけれど・・・
”冗談だよ””やめてくれ”
広樹の口からこの言葉が出た時点で、明はこの状況を全てリセットする気でいる。
だからそれまでは、止まらない感情に任せると自分で覚悟した。
ベッドに広樹を横たわらせる。
広樹は何も言わず、明のされるがままになっていた。
明は眼鏡を外し、いつもの場所に置いた。
そして真新しいシーツに、広樹と共に明は身体を預けた。
-----毎日自分が寝ているベッド。
『俺、明日からここでまともに眠れるんだろうか』
不安が明の脳裏を過ぎった
薄明かりの中
明は、広樹に軽く口付けた。一気に血が上る
広樹は目を閉じていた。
明は広樹の伏せた睫に、指を這わせた。今までずっと触れてみたかった
そして、大好きな広樹の頬を手で包んだ。
『やっぱり。。』
明は少し正気に戻った。広樹が僅かに震えていた。
思ったとおり、広樹が口とは裏腹にちっとも平気じゃない事が頬から手に伝わった。
「ヒロ、震えてんぞ・・・」
明は行為が始まって、初めて言葉をかけた。
広樹が今 止めてくれ と言えば、後でどんなに後悔しても明は止めるつもりだった。
だけど、
広樹からの返事は何も、無かった。
『・・・もう、行ける所までいくしかない。。』
明の最後の鎖が外された。
「ん・・・・」
離された唇からかすかな音と共に、どちらとも無しに声が漏れる。
最初は頑なに口を閉じていた広樹だけれど、優しく軽く何度も口付ける内に、前と同じ様に薄っすら開かれた。
明は躊躇していたが、恐る恐る舌を差し入れた。
軽く閉じられた広樹の歯列をなぞった。
笑うと見える広樹の片八重歯に舌が触れた時、明の心臓が跳ね上がった。
誰にもこんな長いキスはした事が無かった。舌さえ絡めてないのに。
『こんな緩いキスなのに、なんでこんなに・・・』
明は心で自嘲した
今まで触れた事の無かった身体に触れる為 広樹の服をたくし上げる。
脱がせて余す所無く見てみたかったが、暖房もついていないこの部屋の寒さを考えると、明の手は途中で止まった。
それでも薄暗い中、曝け出された広樹の肌は、白く浮き上がっていて艶めかしかった。
夏の日、広樹が屋上でみせた、日焼けが褪せたと嘆いていた姿とオーバーラップする。
筋肉がどんどん削がれているのか、その時よりもやつれ,薄っすら浮き出ているあばらが痩せ具合を物語っていて・・・
明は何故だか堪らなくなって広樹を抱き締めた。
抱き締めると怯えの入っていた広樹の顔が、幾分穏やかになったように感じた。
暫く抱き締めぬくもりを感じられた後、手を滑り込ませた。
初めて触れる肌に、指の先まで緊張していた。
「・・・アキラも、震えてんじゃん。。」
広樹が初めて喋った。脇腹を伝う明の指が震えているのに気付き薄く笑っていた。
「・・・うるせー。」
指摘された明がバツ悪く呟いた。
「ちがう・・・アキラ・・僕」
広樹が薄く目を開けた。
「ホントは怖くて・・・」
「んな事解ってる」
明は広樹の少し汗ばんだ髪を掻き上げた。
「だから。。今、アキラも震えてんの判って・・・
安心したんだ。。」
「あー安心しろよ。
俺は、ヒロの事好きだからな・・・
お前の何千倍もテンパってどうしようもなくなってんだ。
ヒロが、可愛いすぎんだよ」
明は震える手を休め、広樹の髪を何度も撫で、耳元で囁いた。
「・・・可愛いって言うな・・」
明の言葉に、プライドが高い広樹のいつもの顔がちらりと覗いた。
「言わせろよ、こんな時位。」
明は広樹の尖らせた唇を塞いだ。
脇腹から伝う指を再開した明の掌が、広樹の薄い胸を撫で上げた。
膨らみも何も無い胸を触って、何でこんなに興奮しているのか明は自分でも分らなかった。けれど抑えようが無かった。
胸の突起に、明の熱を持った指が触れ、揺らした時
広樹の背が反った。
「ア、アキラッ・・」
驚いた様な広樹が何かから逃れるように、明の首に腕を回ししがみついた。
「ヒロ、感じたか?・・・大丈夫、大丈夫」
広樹が初めて感じたであろう感覚への恐怖を、明は優しく頭を撫でながら宥めた。
『男でも感じるのか・・』
明は熱を帯びた指を、広樹の反応と共に動かした。
「あっ・・・あっ・・」
明の胸を弄る指の動きと共に、広樹が我慢しきれず、言葉にならない声を上げている。
その声を聞く度に、明の理性も吹っ飛びそうになる
『もう、やべぇ・・』
明は広樹の身体に唇を這わせながら、片手で窮屈なジーンズをなんとか脱いだ。
そしてその手で、広樹の下もてこずりながらずらした。
テレビからより大歓声の一層大きな音が流れている。
けれど、耳には何も入らなかった。
暖房はついていないのに、寒さなんて感じなくて
お互い屋上の時とは明らかに違う状態の中、明は再び広樹へと手を伸ばした。